原始の海

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100年前に出現した水の球は『ポセイドン』と呼ばれた。それはまさに今、地球を飲み込もうとしている。
「さよならだね」
「きっと、僕達の愛は真珠に生まれ変わって水の底でまた会える」
瞬間、視界が開けて水底に無数の真珠が転がっているのが見えた気がした。それは息を呑むほど美しい光景だった。何億もの真珠が白銀に輝いている。静かに波に揺られながら、気持ちよさそうに。水底に光は射さないのに輝いているように見えたのは、きっとそれがいのちだから。自分で発光しているのだ。
「世界中の恋人たちが真珠になってしまったら、水底は真珠で溢れかえるね。きっと、すごくキレイ」
「僕たちはまた会える」
水しぶきに濡れた唇を重ねる。心が震えた。
空が裂け水が降り注ぐ。
私たちは、真珠になる。

「任務完了」
無発火型水球爆弾の着弾を見届けて、ひとりの男が母星に通信を送る。
男の星もかつてこうして、原始の海から始まったのだ。
SF
公開:20/10/03 13:35

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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