今はサヨナラ

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そこは誰もが憧れるような田園だった。
やっとのことで見つけたお婆さんに、「人を探しているのですが」と、私を置き去りにして居なくなった彼の特徴を伝えた。
「ああっ、この前こっちに来た子だね。ここは年寄りが多いから、若者ってだけでわかるよ」
お婆さんに教えられた古民家は、扉が開け放たれていて、おずおずと中に入る。
そこには、目を丸くしたタクヤがいた。
「なっ、なんで来たんだ!?」
「バカ! 勝手にいなくなって!」
タクヤを思い切り叩いた刹那、タクヤが私の首に手をかけた。
「帰れ! 帰るんだ。ユキには縁のないところなんだ......」
意識が遠のいた。

目を覚ますと、お母さんと妹が泣きながら抱きついてきた。
「バカ! タクヤ義兄さんの後を追うなんて。みんな悲しむ。義兄だって!」
バカをしてごめん。私も泣いた。
首元が温かい。天国で会ったタクヤの手の感触。
今はさよなら。
でも、縁は切れてない。
ファンタジー
公開:20/10/03 11:04
更新:20/10/04 11:24

十六夜博士

ショートショートを中心に、色々投稿しています。
よろしくお願いします。

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