新月ナイト

12
6

「さとみちゃん、呼ばれてるよ」
喫茶のマスターに声をかけられた。
「東海林さとみさん」
パーティションの裏から三日月みたいな女性が顔を出す。
「後輩の女性に占いチケットを譲った甲斐はあったのかしら」
タロットカードを切って山を作っては、選択の度にカードを捨てる。
「さあ、お好きなカードを三枚選んで」
過去と現在と未来のカードを慎重に選んだ。
最初のカードは逆位置の『正義』だった。動揺して判断が鈍る事を意味する。次は逆位置の『吊し人』、報われない苦痛の日々を。
「最後は逆位置『死』ね。自分にとって必要な縁なのか考え直す時と出たわ。これはあなたにとって復活のカードよ」

後輩とさとみの恋人が仲良く歩いているのを思い出す。丁度喧嘩が多くなった頃だった。意地と悔しさを取り除いたら最後に何が残るだろう。雲間に消え入りそうな光が見えた。
「やめた」
ナイフを川に捨てる。
恋愛
公開:20/10/01 23:31

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容