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死ぬ前に何が食べたいなんて話をしたとき、あのヒトはわたしの店のパンが食べたいと言った。
だから、あのヒトが死ぬ前にパン屋をやめるわけにはいかなかった。
どんなパンが好きなのだろうと、あのヒトがパンを買いに来る度、その組み合わせを確認するのだけれど、時にはメロンパンとツナサンド、時にはチョココルネとウインナーロール、ある時なんかあんパンとあんパンだ。どんなパンが好きなのか検討もつかない。本当はパンなんて好きではないのかもしれない。
そして、あのヒトはとても長生きをした。わたしは最期のパンのことばかりを考えていて、あのヒトが死んだ後のことなんて考えてもいなかったんだ。
最期のパンがなんだったか、話して聞かせるヒトすらもういない。
だから、あのヒトが死ぬ前にパン屋をやめるわけにはいかなかった。
どんなパンが好きなのだろうと、あのヒトがパンを買いに来る度、その組み合わせを確認するのだけれど、時にはメロンパンとツナサンド、時にはチョココルネとウインナーロール、ある時なんかあんパンとあんパンだ。どんなパンが好きなのか検討もつかない。本当はパンなんて好きではないのかもしれない。
そして、あのヒトはとても長生きをした。わたしは最期のパンのことばかりを考えていて、あのヒトが死んだ後のことなんて考えてもいなかったんだ。
最期のパンがなんだったか、話して聞かせるヒトすらもういない。
SF
公開:20/10/01 22:08
作文とロックンロールが好きです。
https://twitter.com/9en_T
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