甘い惑星

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職業で人を差別するのはいけないとわかっているけれど、殺し屋ってのはいくらなんでもどうかと思う。
僕は駄菓子問屋の事務員で、言葉にするのは照れくさいけれど、甘い新婚生活に憧れがある。だから殺し屋の彼女につきあってほしいと言われたときは思わず笑ってしまった。
すると彼女は持っていたナイフで僕のネクタイを緩めて、首すじにキスをしたんだ。そして僕を屋上に誘った。悪い気はしなかった。胸がキュンと撃たれたみたいに熱くなって、まさか本当に撃たれているなんてそのときは思いもしなかったけれど、彼女におぶられながら足の力が抜けて、靴がひとつ、またひとつと階段を転げ落ちていくのをぼんやりと見て、白く霞む世界が朝靄みたいに美しくて、僕は声の限りに問うた。
「世界は美しいのに」
屋上には懐かしい観覧車がある。
通り雨。そして満月。
雨上がりの金木犀が薫って、彼女は僕を好きだと言った。
そして僕らは静かに回り続ける。
公開:20/10/02 15:29

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