ジャズはお静かに（１）知らない女　～オフィスφシリーズ～

毎週の習慣で、俺は行きつけのジャズクラブ、ブルーポールズで独りで演奏を聴いていた。ギター、ドラムス、ベースのトリオだ。

電話が入ったのでこっそりと店を出た。幸い曲の間だ。
未登録のナンバーだが俺は出た。聞き覚えのない女の声だ。
『差異さんでしょ、助けてほしいの』ん？俺の本名を言ったな。
「あなたの名前は？」
『河原町純です』
「事務所はご存知？」
『ええ』
「何時なら来れそうです？」
『40分後ですね』
「なら今から来て下さい」
『わかったわ』女は電話を切った。

俺はオフィスφ（ファイ）という個人事務所をやってる。気に入った仕事だけを受ける気ままな生活だ。
父親の遺産を相続して、自宅の洋館の一部をオフィスにしているが、看板も何もかけていない。断るのが面倒だからだ。仕事は基本的に口コミで入ってくるものから選ぶ。
今回のように、いきなり引き受けるのは珍しい。