隣町の詩人

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なぁ。くれよぉ。くれよぉ。
私が暮らす公園の草むらで隣町の詩人が鳴いている。
耳を塞いでいても、心を閉ざしていても、詩人の声は私の心に沁みわたってくる。私が胃痛なら詩人の声はスクラルファート。直に効くのだ。患部に。何かが。
詩人は秋になるとギザギザのポテチを求めてやってくる。
春や夏にもギザギザのものはあるけれど、秋限定のがいいのだと鳴く。
なぁ。くれよぉ。くれよぉ。
一度だけ詩人の詩集を読んだことがある。ぬかるみと題されたその詩集はとても湿っぽく暗い詩ばかりで、私は割と好きだった。
鬱空の雨に打たれながら飼い犬に脚を咬まれた男がぬかるみでレンコンになって眠る。純白のティッシュがどれだけ降り積もっても、それらはすべてぬかるみになるだけ。そんな詩だ。
私は薄切りにしたじゃがいもにギザギザを入れて油で揚げた。詩人はそのポテチを一瞥すると、悲しそうに私の掌を舐めた。
ざらざらとした秋限定の舌で。
公開:20/10/02 12:35

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