サンルーフタクシー

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雲ひとつない空。
私は彼との別れを決めた。積もりに積もった「なんだかなぁ」を一息に吹き飛ばしたいと思った。この空のように。
たとえば彼は蝶を食べる。綺麗な花を綺麗だねと愛でながら、その花の蜜を吸いにきた美しい蝶を食べる。初めて見たときは言葉をなくした。
それまで私は男の人とつきあったことがなく、男の人は皆そういうものなのかと思い、大人にならなきゃ、と我慢してきた。
彼の好物は黒ずんだすだれ。枯葉などもよく食べる。私はその都度衝撃を受けながら、そういうものなのだと大人ぶってきた。
焼肉を食べて、カラオケに行って、彼はタクシーを強奪して、私たちは首都高をドライブした。
胸のドキドキは激しさを増して、これが恋なのかと、私は人生が怖くなった。そして彼は私のくちびるを奪う。前を向いてほしい。運転中ぐらい。
私は助手席のシートを倒して空を見上げる。ああ。こんなにもパトカーのサイレンがあたたかいなんて。
公開:20/09/30 16:04

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