猫舌とラング・ド・シャ

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その洋菓子店のラング・ド・シャが好きだった。あの人が家族との北海道旅行で買ってきた『白い恋人』とは比べものにならず、膜のように薄い独特のざらついた食感と繊細な舌触り。ほんのりとラムが香る。

自分を象徴するようであった。

無責任な「愛してる」や不倫相手に『白い恋人』を買ってくる無神経さも、アイコスの匂いも大嫌い。けれど、触れた大きな手、撫でて髪をすり抜ける指、その笑顔が私のものでないと考えると体が痺れた。

ーーにゃあむ

「そんなに悲しいなら終わりにしたら?」

眠たそうな目、飼い猫のパンペロが喋ったように錯覚する。ざらつくちいさな舌が頬を舐めた。

涙に気づいたのは西日が目に沁みて少しあと。気づけばスマホのボタンを押していた。

「会って話がしたい。」

珈琲の熱で舌が痺れた。ラング・ド・シャを一枚齧るとやはりラムが香る。

「それでいい。」
パンペロの優しい声が聞こえた気がした。
ファンタジー
公開:20/09/30 17:53
更新:20/09/30 19:09
洋菓子短編⑤ ラング・ド・シャ フランス語で猫の舌 ざらざらとした薄い食感から パンペロはラム酒の銘柄 白い恋人はラング・ド・シャ でホワイトチョコを挟んだお菓子

空津 歩( 東京在住 )

空津 歩です。

ずいぶんお留守にしてました。

ひさびさに描いていきたいです!


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