天体ビリヤード

『先攻、神によるブレイクショット、的球がポケットに落ちなかったため、プレイヤー権が移ります』

どこからともなく無機質なアナウンスが流れる。
滑り止めにチョークを塗り、キューを構えた。
連動して、部屋のモニターに映し出された巨大ロボがキューを構える。
その先には、手球に見立てた月が置かれていた。

人が競い合うのは、神の相手が務まる者を育てるためだと何かで読んだ。だがまさか、太陽系の命運を決めるために、こうして神と対峙するとは思ってもみなかった。

緊張で手が震える。額から伝った汗が目に入り、視界を滲ませた。
俺の使命は地球へのダメージを最小限に抑え、このゲームに勝利すること。
呼吸を整え、キューを引く。もしもミスれば、このあと手番が回ってくることはないだろう。

宇宙空間に設けられたビリヤード台の周りを、全人類を乗せた船団が囲っている。張りつめた空気の中、月の真芯を突く音が静かに響いた。