10
9
ぼくは風船がこわい。
銀行でもらった赤い風船にマジックで顔を描いて遊んだ。
次の日、右の瞼が垂れて、唇がヘの字になった。つつくと、舌打ちするみたいな顔で鼻をヒクつかせる。次の日には、唇の隙間から歯がのぞいてた。ぼくはその顔を見たくなくて、本棚の上のほうに縛っておいたんだけど、次の日には、ダラリとさかさまになってぼくのことを一中目で追ってくるんだ。「扇風機の風で揺れてるだけでしょ」ってママは言うけど、風船は絶対ぼくを恨んでる。
「空気を入れてやればいいんじゃないか」とパパが笑いながら、科学雑誌の付録についてきた太い注射器をもってきた。「割れちゃうよ!」っていったら、「テープを貼った上からなら大丈夫」って言ってブスッて注射した。風船はすごくうっとりした顔をした。
テープ貼って注射してテープ貼って注射して……
分厚いテープの塊になった無表情の風船。
だからぼくは風船がこわいんだ。
銀行でもらった赤い風船にマジックで顔を描いて遊んだ。
次の日、右の瞼が垂れて、唇がヘの字になった。つつくと、舌打ちするみたいな顔で鼻をヒクつかせる。次の日には、唇の隙間から歯がのぞいてた。ぼくはその顔を見たくなくて、本棚の上のほうに縛っておいたんだけど、次の日には、ダラリとさかさまになってぼくのことを一中目で追ってくるんだ。「扇風機の風で揺れてるだけでしょ」ってママは言うけど、風船は絶対ぼくを恨んでる。
「空気を入れてやればいいんじゃないか」とパパが笑いながら、科学雑誌の付録についてきた太い注射器をもってきた。「割れちゃうよ!」っていったら、「テープを貼った上からなら大丈夫」って言ってブスッて注射した。風船はすごくうっとりした顔をした。
テープ貼って注射してテープ貼って注射して……
分厚いテープの塊になった無表情の風船。
だからぼくは風船がこわいんだ。
その他
公開:20/09/29 09:19
こわいわけ
星新一さんのようにかっちりと書く素養に乏しく、
川端康成さんの「掌の小説」のように書ければと思うので、
ショートショートとはズレているのかもしれないです。
オチ、どんでん返し、胸のすく結末。はありません。
400文字、おつきあいいただければ幸いです。
ログインするとコメントを投稿できます