青春の幻影

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 「男好きなんじゃないかって、クラスで噂がたった」
 彼がふてくされてそう言った。端正な顔立ちで文武両道。性格だって強くて優しい。にもかかわらず、あれだけ女子の告白を断れば、そんな話が出てもおかしくない。
 誰かに応じてみればと私が言うと、「ベタ惚れだって知ってるくせに」と睨まれた。
 ごめんね。秘密なの、私のせいだよね。
 半年前、放課後に打ち明けられて、断った。彼は諦めず、一途に私を思い続けた。晩夏の雨の夜、ずぶ濡れで来た彼を部屋にあげ、唇を奪われた。そのまま一夜を共にする。
 押し切られた――ううん、それは言い訳だ。過去の失恋を引きずっていた私だって、心のどこかで望んでいた。
 でも、思春期のこんな恋愛は、彼の心の疵になる。あと半年で卒業式。受験が終わったら、無垢な彼を手放そう。心に誓ったはずなのに、涙が溢れそうになる。
 俯く私を抱き締めて、彼が優しく囁いた。
 「先生、大丈夫?」
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公開:20/12/02 01:53
更新:20/12/02 02:06

掌編小説( 首都圏 )

Twitterで掌編小説を書いています。本業は別ジャンルの物書きです。好物はうまい棒とダイエットドクターペッパー。
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イラストはミカスケさん(https://twitter.com/oekakimikasuke)やノーコピーライトガールさん(https://twitter.com/nocopyrightgirl)の作品です。写真はフリー素材を利用させていただいています。

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