亀譚浦島事始(きたんうらしまことはじめ)
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「妾の望みが叶うのじゃ」
ほつりと泡の呟きに、黙って首を垂れました。
お止めなされと云えたなら。持てる言葉のありったけ、懸けてお諫め出来たなら。
「此度こそは叶うのじゃ」
届かぬ遥か海上の、未だ見ぬ沖を抱く様な、伸べた両手に漆塗り。
棺にも似た漆黒の、時を封ぜし魂手箱。――次が生まれてしまったか。
巡り巡りて彼の君の、千代に八千代に繰り返し、寄せては返す波のごと。たとえ幾度迎えても、必ず去って往くのだと、声を限りに叫べたら。
「迎えにお行き、我が君を」
声を発せぬわたくしは、黙って首を垂れました。
明日には浜で会うだろう、三十三代の浦島も、いずれは箱を開ける者。人一人には負い切れぬ、全ての『彼』を身に浴びて、真白き骨と化すでしょう。
重ねるごとに増す呪い。よろづの年を共にして、顧みられぬわたくしは、甲羅に貴方の業を乗せ、暗き海をひた泳ぐ。
永の暇を請わぬ間に、此度は還れぬやも知れぬ。
ほつりと泡の呟きに、黙って首を垂れました。
お止めなされと云えたなら。持てる言葉のありったけ、懸けてお諫め出来たなら。
「此度こそは叶うのじゃ」
届かぬ遥か海上の、未だ見ぬ沖を抱く様な、伸べた両手に漆塗り。
棺にも似た漆黒の、時を封ぜし魂手箱。――次が生まれてしまったか。
巡り巡りて彼の君の、千代に八千代に繰り返し、寄せては返す波のごと。たとえ幾度迎えても、必ず去って往くのだと、声を限りに叫べたら。
「迎えにお行き、我が君を」
声を発せぬわたくしは、黙って首を垂れました。
明日には浜で会うだろう、三十三代の浦島も、いずれは箱を開ける者。人一人には負い切れぬ、全ての『彼』を身に浴びて、真白き骨と化すでしょう。
重ねるごとに増す呪い。よろづの年を共にして、顧みられぬわたくしは、甲羅に貴方の業を乗せ、暗き海をひた泳ぐ。
永の暇を請わぬ間に、此度は還れぬやも知れぬ。
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公開:20/12/02 19:06
浦島太郎の裏話
協力:如月十九さん
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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