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キッチンに立つ夫は真剣な顔をしてインスタント味噌汁の袋を睨んでいた。
「どうしたの?」
口を結んで首を振る。ため息を付いたあと、徐に言った。
「どうして葱だけのセットがないんだろう」
「ニーズがないからよ」
妻はあっさりと応えた。
「マイノリティはいつも苦汁を飲まされるな」
「別に苦くはないわよ、油揚げの味噌汁も」
夫は戦場で息絶えた旧友に思いを馳せているかのような虚ろな目をしてぼんやりと壁を見、また首を振った。
「生きづらい世の中だ。やれアイデンティティだ、自分らしく生きろだとか威勢がいい割に、国も企業も、真の意味で個人に寄り添う気などないのだ」
「当たり前でしょ、そんなの」
夫は、嘆かわしい、と小さくつぶやきながら油揚げをまぶした合わせ味噌の上に沸騰させたお湯を注ぎ入れる。

「寒い冬の朝は味噌汁に限るな」
妻は呆れながら汁をすする。
体が温まってくると、確かにどうでもよくなってきた。
その他
公開:20/12/02 07:00
更新:20/12/01 18:44

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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