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箪笥の引き出しは一段空ける。それが我が家の家訓だった。
何も入れず置いておくなんて。子供の頃は奇妙に思ったものだ。そのくせ父も母も、季節の変わる度、節目の訪れる度、空の引き出しを開けては中をあらためた。
「何が入ってるの?」
「何だろうね」
笑いながら私の引き出しを磨き、宝物でも入った様に整えていく。宙を滑る指は秘密の匂いがして、大人はずるいとふくれる私に、一層楽し気に笑うのだった。
「何が入ってるの?」
「何だろうね」
今もそこには、四角く切った空間が収まっている。
目に見えないそれに手を伸ばす時、けれど確かに触れるものがある。
私に流れる血の温もりかも知れないし、いつか響いた言葉かも知れない。絶えず注がれてきた眼差しかも知れない。あるいは気付かず通り過ぎた、有形無形の全てなのかも知れない。
風を通し、繕い、畳み直し、時に入れ替える。心の引き出しも整理しながら、また思い出を重ねていく。
何も入れず置いておくなんて。子供の頃は奇妙に思ったものだ。そのくせ父も母も、季節の変わる度、節目の訪れる度、空の引き出しを開けては中をあらためた。
「何が入ってるの?」
「何だろうね」
笑いながら私の引き出しを磨き、宝物でも入った様に整えていく。宙を滑る指は秘密の匂いがして、大人はずるいとふくれる私に、一層楽し気に笑うのだった。
「何が入ってるの?」
「何だろうね」
今もそこには、四角く切った空間が収まっている。
目に見えないそれに手を伸ばす時、けれど確かに触れるものがある。
私に流れる血の温もりかも知れないし、いつか響いた言葉かも知れない。絶えず注がれてきた眼差しかも知れない。あるいは気付かず通り過ぎた、有形無形の全てなのかも知れない。
風を通し、繕い、畳み直し、時に入れ替える。心の引き出しも整理しながら、また思い出を重ねていく。
その他
公開:20/12/01 15:21
縁~ゆかり
創樹(もとき)と申します。
葬祭系の生花事業部に勤務の傍ら、物書きもどきをしております。
小石 創樹(こいわ もとき)名にて、AmazonでKindle書籍を出版中。ご興味をお持ちの方、よろしければ覗いてやって下さい。
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ベリーショートショートマガジン『ベリショーズ』
Light・Vol.6~Vol.13執筆&編集
他、note/monogatary/小説家になろう など投稿サイトに出没。
【直近の受賞歴】
第一回小鳥書房文学賞入賞 2022年6月作品集出版
愛媛新聞超ショートショートコンテスト2022 特別賞
第二回ひなた短編文学賞 双葉町長賞
いつも本当にありがとうございます!
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