トリックスター

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「熱心に何を書いているんだい?」
極甘の声で話しかけてきた青年が書きかけの小説を興味津々という目で覗きこんだ。気がつけば図書館の閉館時間が近づいていて、周りに人はいなくなっていた。慌てて片付けようとする私の手からノートを取り上げ青年は微笑んだ。
「図書館を舞台にした冒険活劇ラブサスペンス、ふふ詰め込みすぎだよ、ナンシー」
私はナンシーでは無かったが、美しい青年を前にすると何も言えなかった。
「僕のようなトリックスターを登場させるんだ。どんなつまらない話だって夜空の星のように煌めいてーーナンシー、先ずは凝った設定より文章の練習からだね」


朝の喧騒で起きたトムは書きかけの自分のノートを見て愕然とした。
「深夜に書いたラブレター並みに危険だな。なぁ、ナンシー」
足元で寝ていた猫を撫でカーテンを開けると、空で魔法使い達が小競り合いをしていた。
「魔法使いなんて見飽きてるしな」
ファンタジー
公開:20/11/30 23:44

射谷 友里

射谷 友里(いてや ゆり)と申します
十年以上前に赤川仁洋さん運営のWeb総合文芸誌「文華」に同名で投稿していました。もう一度小説を書くことに挑戦したくなりこちらで修行中です。感想頂けると嬉しいです。宜しくお願いします。

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