花の髪飾りをした少女

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 人里離れたサナトリウム。日曜日の昼下がり、施錠が解けて三時間だけ敷地内を散歩できる。
 その少女は庭園のベンチに座り、虚空に視線を向けていた。髪に大きな花飾りをつけている。
 「隣いいですか?」。少女は微笑み、頷いた。
 入所間もない十七歳。いくつか言葉を交わしたあと、「どこが病気なのでしょう?」と私は尋ねる。笑みを浮かべ、少女はそれには答えなかった。私は自分の無神経さを恥じた。
 以来、週一度の少女とのひとときが、長い施設暮らしの楽しみになった。白い肌、華奢な体軀。会うたびに彩りを増す花飾りが、美しさを引き立たせる。
 ただ、少女は次第に寡黙になり、太陽に向いて口を閉ざす時間が増えた。
 半年目。庭園から少女の姿が消えた。必死で探すが見あたらない。ため息をつき、花壇を横切ろうとして何かに躓く。
 足元に無数の花が咲いている。根茎のその先に、彼女によく似た輪郭の、大きな球根が落ちていた。
ファンタジー
公開:20/11/29 15:20
更新:20/11/29 15:52

掌編小説( 首都圏 )

Twitterで掌編小説を書いています。本業は別ジャンルの物書きです。好物はうまい棒とダイエットドクターペッパー。
フォロワーさんに「ショートショートガーデン」を教えていただきました。どうぞよろしくお願いします。
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イラストはミカスケさん(https://twitter.com/oekakimikasuke)やノーコピーライトガールさん(https://twitter.com/nocopyrightgirl)の作品です。写真はフリー素材を利用させていただいています。

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