風船が運ぶ

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死ぬにもそれなりに準備が要る。だが、あまり捗らない。とことん段取りが悪いのだ。
庭に出たら、垣根近くの赤い異物が目に入った。萎んだ風船だ。紐に結んである封筒を開けたら黒い粒が零れ落ちた。畳んだ紙を開くと、こう書いてあった。
―希望の種です。花が咲いて、実が生ったら、また飛ばしてください。雲雀が丘小学校3年3組江西結美

笑える。笑えない。ここに着地する時点で終わってる。風船は燃えるゴミでいいか。

数日後。塀際に蔓が伸びていた。風の中かろうじて塀で身を支えている。翌日、てっぺんの蕾がふっくらと開いた。真っ白な花びらの底はほのかな紅。顔を寄せると、露の玉が花びらの隙間をつうと零れた。思わず差し出した手がちょっとだけ濡れる。同時に、初めてなのに懐かしい匂いが胸にしみる。ほどなく花は散り、夕方にはぷっくりと実が生っていた。
便箋、探さなくては。私は急いで部屋に戻る。手の中の実はほの温かかった。
その他
公開:20/11/29 19:00
更新:20/11/29 16:41
#縁 #コンテスト #128

こぶみかん( 関西 )

ssの庭に迷い込んだこぶみかん。数々のお話の面白さに魅せられ、通い始めた。
気が付いたら、庭の片隅に挿し穂されていた。
いつか実を結ぶまでじっくり育つといいね。

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