冷たい手

　男には片想いの相手がいた。それは大学の先輩で、男は彼女と仲良くなろうと、彼女と同じ授業を受けて、同じサークルに入った。その甲斐あってか、男はその女性と仲良くなることができた。
　女性はいつも手袋をつけていた。極度の冷え性らしく、少なくとも大学の構内で彼女の手袋をつけていない手を見たことがなかった。
　男はその手袋が自分たちを隔てている壁のように思えて仕方なかった。そこで、授業が終了したところを見計らって女性に手袋を外して欲しいとお願いした。
　女性はどうしようか迷った様子で、そんな時、男と彼女の間を巡回用ロボが通り過ぎた。
　いくらか興が削がれ、男は通り過ぎた無機質な背中を睨んでから女性に向き直って再度お願いした。
　しかし女性は両手を胸の辺りで組むと、「冷え性だから」とだけ言った。
　結局、男が女性の手を見ることは終ぞなかった。