海辺のデート

　熟れすぎた果実のような太陽が、水平線に溶けていく。
　黄昏時の砂浜を、しっかり手をつなぎながら僕らは歩いた。
　初めてのデートはどこにしようと尋ねると、「海がいいな」と彼女は言った。
　ちょっと意外に感じながら、「じゃあそうしよう」と僕は応じた。幼い頃に両親と、同じ浜辺に来たことがあるらしい。
　「空が赤く染まっているよ」
　「遠くに汽船が浮かんでる」
　「灯台に明かりがともった」
　僕が話すと、彼女は頷き、「昔見た通りの景色だよ」と笑みを浮かべた。
　晩秋の澄んだ空が群青色に染まるまで、僕らは身を寄せ合って、その場にたたずむ。
　夕日が海に消えた頃、おもむろに彼女は僕の向かいに立った。
　冷えた両手をそっと僕の頰に乗せ、目、鼻、口に細い指を這わせる。
　「あなたはどんな顔なのかしら」
　瞳は閉じられたまま、幾筋もの涙が頰をつたう。
　中途で光をなくした彼女の手から、白い杖が砂に落ちた。