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手が冷えてしょうがない夜だった。ザザー、ザザーと波音がきこえる。手のひらの小窓を開けっ放しにしていたせいだった。毎晩閉めて鍵をかけるのに、すっかり忘れていた。しかし、波音と冷たい潮風に心癒される。薄暗い部屋の中で、手のひらの小窓から見える冬の海は月に照らされ煌めいていた。それを見つめていると、上から大きな手のひらが重なり、小窓が閉められ鍵をがちゃりとかけられた。私を後ろから抱きしめる恋人が、自分の手のひらの小窓を開けて私に見せた。夕焼けで橙色に染まる海がいつも通り美しかった。それは夏の海だった。暖かい潮風と共に私の手を覆う大きな手。私の手は温もりを取り戻す。恋人は自分の小窓の鍵を閉めながら、私に言った。「僕たちに子供が産まれたら、その子の海はどんなだろうね。」顔を真っ赤にした私の頰に恋人はくちづける。小窓のガラスが重なり合ってカチカチと音を立てた。それぞれの海がひとつになって、凪いだ。
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公開:20/11/29 23:48

夜野 るこ

  夜野 るこ と申します。
(よるの)

皆さんの心に残るようなお話を書くことが目標です。よろしくお願いします。

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