横棒に点だろ自由って

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朝はドビュッシーが流れて、夕方にはエアロスミスが流れる。
上流から下流へ。
飼い主である小田桐さんはありきたりな散歩を嫌い、次から次へと飼い犬を川に流す。
私はリバーサイドマンションの管理人。仕事の合間に流れる犬を見ては明日は我が身と怯えた。
バッハや古関裕而は小さなチワワだから心配だけど、いつも無事に帰ってくるから小田桐さんには何も言えない。
「君は泳げるの」
小田桐さんに聞かれたとき、私はどう答えるべきか迷った。
彼はこのマンションのオーナーだ。私は雇われの管理人。飼い犬になったつもりはないけど、私もいつか住民みたいに流されるのだろうか。
50世帯82頭が暮らすマンションの全室に肉片を配り終えて管理人室に戻ると、表札に「あいみょん」と書かれてあるのに気がついた。
私は管理人の文字に横棒と点を打った。四つ足で走ると気持ちがすぅーっとして、これが本当の自由だと確信した。川で吠えるの、最高。
公開:20/11/28 16:18

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