かおりばこや

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いらっしゃいませ。かおりばこやへようこそ。今回は『トム爺ちゃんの香り』というお話。 二十歳の青年サムから、亡くなったお爺さまの香りを作ってほしいとの依頼があり、幾つかの香りをお作りしたのですが、近い香りはできても、満足いく香りには辿り着けず、諦めて帰っていかれました。私もご希望に沿うことが出来ず、やりきれない気持ちで帰宅していたところ、普段なら気にも留めない靴磨き屋の前で足が止まりました。そこで、サムのお爺さま、トムが靴磨き屋だったことを思い出しました。もしかしたら、足りなかったのは、靴磨き用のワックスの匂いだったのではないかと。すぐに店に戻り、サムに電話をかけ、再び店を訪れたサムに香り箱を渡しました。するとサムの表情が一変。涙を浮かべ、「これだ、トム爺ちゃんの香りだ」と。 香りは人の記憶を蘇らせるもの。私もまたこの香り箱を嗅ぐと思い出すのです。お会いしたこともない、トム爺ちゃんのことを。
その他
公開:20/11/28 11:02

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