理想の物語

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「売れ筋? そりゃあシンデレラストーリーさ」
 店主の男は事もなげに言った。
「やっぱり憧れるんじゃないかねぇ。その人に合った物語なんて滅多にないのに、これだけは売れるんだよ」
 だけど、と男は付け足す。
「成功した奴は殆どいない。……え、責任? 俺は商品を売るだけだし、買った後のことは知らないね」
 成功しない理由を聞かれると、男はこぢんまりとした店内を見渡して答えた。
「うちはもともと童話を取り扱う店だったから、シンデレラストーリーの語源になったシンデレラも当然知ってるさ」
 そう言って引き出しから一冊の童話を取り出す。
「まあつまり、楽を求める奴が多すぎる。苦労もせずに幸せになろうとするんだから」
 だから挫折する。
 男は更に、その事を客に教えないのか、と訊かれると、愉快そうに笑って、
「ははは! そりゃあお前、教えちゃいかんだろ。ネタバレはマナー違反だからな」
その他
公開:20/11/26 21:24

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