家族団らん

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「ただいま」
 私はとうとう今日、定年を迎えた。男は黙って家族のために仕事をすればいい、長年そう思いながら働いてきた。
「おかえりなさい」
 妻が笑顔で私を迎える。
「あなた、長い間ご苦労様でした」
「ああ。部下達が花束をくれた。飾っておけ」
「父さん、ビール飲む?」
 廊下の角から息子が顔を出した。
「ああ、グラスを出しておけ」
「お父さん、肉じゃが作ったの。食べない?」
 リビングの入り口で娘が言う。
「いいな、もらおうか」
 食卓には花が飾られ、ビールと肉じゃがが並んだ。
「お疲れさま、お父さん」
 疲れた体がビールで解けてゆく。
 妻が泣き、息子も娘も泣いた。
「何を泣く。大袈裟な」
「お父さんが帰ってきてくれたのが嬉しくて」
 和室には大きな白い棺が置かれている。
 妻と出会って一緒になり、この家を買って子供達も生まれた。幸せだったな。
 我が人生に悔いなし。先に行って待つ。
その他
公開:20/11/26 20:43

深月凛音( 埼玉県 )

みづき りんねと読みます。
創作が大好きな主婦です。ショートショート小説を書くのがとても楽しくて好き。色々なジャンルの作品を書いていきたいなと思っています。どうぞよろしくお願いいたします。
猫ショートショート入選『ミルク』
渋谷ショートショートコンテスト優秀賞『ハチ公、旅に出る』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[節目]入賞『私の母は晴れ女』
ベルモニーPresentsショートショートコンテスト[縁]ベルモニー賞『縁屋―ゆかりや―』

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