パンタグラフと金平糖

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列車はまだ来ない。駅のベンチでずっと待ってる。ホームには誰もいない。無人駅になってからこの辺りは寂れる一方だ。潮風に煽られて止めの外れた駅看板が鳴る。遠くから聞こえるのは街のざわめき。近くにあるのは音のない海のきらめき。
ポケットから金平糖の小瓶を取り出し色とりどりの粒を光に透かす。
寒い。
水色の粒を手のひらに落として転がして列車を待つ。待つ。待ちくたびれて口に放り込む。
カリカリ噛み砕くと冷たい甘さ。
線路が鳴り始める。小瓶をポケットに戻して立ち上がり、左を望む。
パンタグラフが青く光る。飛び散る火花のリズムは線路の音。列車がぐんぐん近づいてくる。静寂を破る轟音。そのままスピードを落とさず風を巻いて通り過ぎていく。わたしの影を引き抜いて。
パンタグラフは光る。爆ける。飛び散る火花はホームにこぼれ落ちて金平糖になる。
静寂。
拾い集めて小瓶に詰め、ベンチに戻る。遠ざかる列車の影。
寒い。
その他
公開:20/11/26 19:59

工房ナカムラ( ちほう )

ボケ防止にショートショートを作ります

第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。

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