なかったことに

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男はすべてを失った。
会社の金を横領したことが明るみに出たのだ。一度だけのつもりだったが、病みつきになり金額はどんどん膨れ上がった。やりすぎた。監査が入り、事は発覚。氏名が公表されたうえ解雇。家族もマイホームも失った。自らの行いを後悔してもし切れない。

することもなく、男は小さな公園で一日を過ごすことが日課になっていた。
「あぁ、なかったことにしたい」
口癖になっていた。

「反省しましたか」
いつからいたのだろうか。目の前に初老の男が立っていた。

不思議に思ったが
「反省しました」
と、気が付けば返答していた。

「では、なかったことにしてやろう」
初老の男が、男の額に手を当てた。意識が遠のいてくのが分かった。
やったぞ、なかったことになる…。

…男は頭を抱えていた。
あてにしていた残業が規制され、ローンの返済ができなくなっていたのだ。
金庫には会社の通帳がある…。よし、少しなら。
その他
公開:20/11/26 06:43

おおつき太郎

面白い文章が書けるように練習しています。
日々の生活の中で考えたこと、思いついたことを題材にしてあれこれ書いています。


Twitterはじめました。
https://twitter.com/otaro_twi
 

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