彼岸花の救済

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 気づけば、世界は彼岸花に埋め尽くされていた。
 外に出た者は、一瞬のうちに顔や手から毒々しい紅の花を咲き乱れさせて死んで行った。
 彼岸花たちは実に貪欲で、外気に露出しているものになら、何にでも寄生し、僅かな養分を吸い尽くして花を咲かせてしまった。
 私は明るい太陽の光を憂鬱な気分で浴びながら、窓の外を眺めた。窓にもいくつか彼岸花が咲いており、改めて、その生に対する貪欲さに驚いた。
 一体、部屋に籠城してから何日が経過しているのだろう。それすらも分からなくなるほどに、私は外へ出ていなかった。
 保存食は備蓄分がかなりあった。だが、彼岸花に怯えて助けを待つことが、果たして生きていると言えるのだろうか?
 そんなことを思いながら、私はふと自分の手を見やた。手の甲に、小さな彼岸花が咲いていた。
 私は思わずヘヘッと笑った。案外、彼岸花こそが真の救済なのかも知れないなと思った。
SF
公開:20/11/27 17:57
終末 『幻想日和』

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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