アスナの言伝

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 久しぶりにお見かけした岩屋の旦那様は、少しばかり痩せておられる気がした。
蛇紋石で作られた着流しを優雅に着こなし、その上から真珠の羽織を着ているその様は、いつもながらに優美だったが、どこか儚げだ。
旦那様は真珠よりも透き通った白い顔を、心配げに歪めておられた。
「アスナ殿よ、さざめきの森の石や岩が怯えておると申したか?」
「はい、左様にございます。昨晩、春細工の素材集めにさざめきの森へ入りましたら、石や岩たちが泣いていたのでございます。そう遠くない未来に、この森が春を迎えられなくなる時が来る、森が壊れる、森が死ぬ、と」
 暗闇の中で聞いた岩石たちの泣き叫ぶ声を思い出して、私はブルリと身体を震わせる。
「アスナ殿、よう知らせに来てくれたな」
 旦那様は重々しいけれど優しい口調でそう言うと、私に真珠の羽織をかけてくれた。その心遣いが、なぜかとても嬉しかった。
ファンタジー
公開:20/11/27 07:36
和風ファンタジー 『和幻之郷』

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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