4
4

街の雑踏で、人とぶつかった。謝って去ろうとしたが、去れない。袖が絡まったのだ。

すると空いているほうの相手の手が、別の人にぶつかり、また絡まった。

その別の人の袖もまた別の人の袖と絡まり、以下くりかえし。

私は列の動きを一身に受け、見当もつかない方向へ進むしかなかった。

列は交差点を越え、歩道橋を越え、ハイウェイを越え、摩天楼を越え、どこまでも進んだ。

とうとうひと気がまったくなく、あるものと言えば海くらいの、断崖絶壁にまで行き当たった。

鼻先に崖が迫っているのに、列はちっとも止まってくれない。思わず振り返る。

「あの、ちょっと、どうにかなりませんか」

「なりません」

とうとう崖っぷちに辿り着き、諦めかけたとたん、列が止まった。

ふと下を見ると、手があった。その持ち主は目を丸くして、崖につかまっていた。

「これも何かの縁でしょうね」

私はそう言って、その手を掴んだ。
その他
公開:20/11/27 07:24
更新:20/11/27 07:29

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容