デパートメントストア

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好きな人に会いたくてデパートメントストアでアルバイトをした。彼女の働くフロアは男子高校生がバイトで入れる場所ではないから別の階の洋食屋で働いた。
彼女は洒落た大人の女性で高価な服をとっかえひっかえ、まるでお人形さんみたいだった。高嶺の花は分かっていた。それでも微かな笑みを浮かべ颯爽と仕事をこなす彼女や閉店後の薄暗い店内で見せるホッとした表情を見るだけで幸せだった。
ある日、彼女の姿がショーウィンドウから消えて、僕はバイトを止めた。

正月休みの百貨店に一人佇むあの人を見つけた。十年前と変わらず美しい。
彼女を連れ出し一緒に暮らし始めた。僕の買ってくる服は値段もセンスもひどいものだったけど、いつも喜んでくれた。やがて彼女は妻となった。
防犯カメラの映像を元に警察が僕らを見つけた。
妻が連れ戻される。取り乱す僕に、いつもの微笑で答えた妻がそっと足指を二本、残していった。

それが子供たちだ。
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公開:20/11/25 18:38

たそがれる猫の城

主にTwitterで140字小説やマイクロノベル等、短いお話をのんびりと書いています。

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