糸繰物語

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 年が明けると、私は色とりどりの魂たちを糸に繰り込んで行く。
 魂たちはそれぞれに個性がある。色の違い、光り方、形だって全て円いと思っていたら大違いで、よくよく見れば、少しへこんでいたり、長細かったりする。
 私はそんな魂たちの個性をそれぞれ見極めて、繰り込む魂の組み合わせを考えながら、丁寧に作業を進めて行く。
 この魂たちは、昨年に私の住む「さざめきの森」で死んだ生き物たちだ。その中には、猪や、鼠、毛虫に鮒、雉、人間もいる。皆、種族は違えど、魂になれば私の生み出す糸へと引き寄せられ、繰り込まれて行く。
 私は冬の間に糸を吐き、魂を繰り込んで、愛しいあの方が春を届けてくれるのを待つ。
 そして、あの方が春を届けてくれたなら、私は魂の光で極彩色に輝かせた糸を振袖に仕立てて、生まれたての春に着せてやる。
 それが、糸繰蜘蛛たる私の役目なのだ。
ファンタジー
公開:20/11/25 13:53
更新:20/11/26 18:57
和風ファンタジー 『和幻之郷』

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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