喫茶店「悠久堂」

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 京都の大学で院生をしていたころ、よく「悠久堂」という喫茶店に通っていた。
 地下鉄烏丸線丸太町駅のすぐ近く、ビル街の一角に、その喫茶店はあった。
 ビルとビルの間にすっぽりと収まるように入っている実に小さな喫茶店で、何だか童話の世界から飛び出して来たような、そんな印象を初めて訪れた時には抱いたものだ。
 私はそこで夜中に紅茶を飲みながら、研究論文を読むのが好きだった。
 単に店の雰囲気が好きというのもあるのだが、私と同年代と思われるマスターが淹れてくれる紅茶に魅力を感じていたのだ。
 彼女が淹れる紅茶はいつもダージリンだったが、その水面から紅茶の香りを漂わせたドラゴンやユニコーン、ペガサスなどが必ず現れて、少しの間、店の中を飛び回るのだ。
 私は論文を読むのを中断して、架空の動物たちが優雅に飛び回り、ティーカップに戻るのを見るその時間が、本当に好きだったのだ。
ファンタジー
公開:20/11/24 07:11
マジックリアリズム 幻想日和

海棠咲

 幻想小説や怪奇小説を自由気ままに書いています。
 架空の国、マジックリアリズム 、怪談、残酷なファンタジー、不思議な物語が好きです。
 そこに美しい幻想や怪奇があるならば、どんなお話でも書きたいと思います。

 アイコンは宇薙様(https://skima.jp/profile?id=146526)に描いていただきました。

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