夕暮れ自動販売機

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「今日は大物を釣って帰るからな。楽しみにしてろよ」
釣り道具を抱えた夫が嬉しそうに家を出る。
『あなた、頼んでいた物もちゃんと買ってきてくださいね』
「分かっているよ」

「ただいま…」
家を出た時とは正反対。肩を落とした夫が帰ってきた。
「ごめん…一匹も釣れなかった…」
『それは期待していないからいいわ。それより頼んでいたもの買ってきてくれた?』
夫はポケットからそれを取り出す。頼んでいた、お日様のニオイの詰まったお日様香水である。
それを受け取った子供達は喜んで部屋に戻り、布団やぬいぐるみに使ってはその匂いを堪能する。
お日様香水は水平線に浮かぶ自動販売機でしか買えない。夕日が自動販売機に落ちた時が販売開始の合図。だから私は夫に夕暮れ自動販売機での買い物を頼んでいた。
喜ぶ子供達を見て、夜の海のように暗かった夫が夕日程度の明るさに戻った。
私がその背中にトワイライトを当てていたからね。
公開:20/11/23 19:44

幸運な野良猫

元・パンスト和尚。2019年7月9日。試しに名前変更。
元・魔法動物フィジカルパンダ。2020年3月21日。話の流れで名前変更。
元・どんぐり三等兵。2021年2月22日。猫の日にちなんで名前変更。

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