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病室の入り口に東欧風の中年の女性が立っている。「交通事故のお見舞いに、ビーツの束なんておかしいわよね。綺麗な花束の方がよかったかな。」誰なんだろう、この人は。記憶の彼方にある気がするけど分からない。「あなたがお腹にいた時は、よくボルシチを食べたわ。栄養が沢山で胎児の発育にいいのよ。ビーツは。」ボルシチ、ビーツ…。「産まれた時はあんなに小さかったのに、こんなに大きくなったのね。」あ、そういえば昔、遠い昔、私はどこかで真紅のスープを食べていた。「また会えて良かった。じゃあね。」ビーツの束を持ち、私を見つめて微笑む女性から、豊かな大地の香りが漂ってくる。「ママ!」
「もう大丈夫よ。」聞きなれた声にはっとして目を開けると、淡い色のニットを着たいつもの母が、枕元でベッドの私を覗き込んでいた。「お母さん…」
女性との時間は、束の間にも長い時間にも感じられた。豊かな土の香りが病室に残っている。
「もう大丈夫よ。」聞きなれた声にはっとして目を開けると、淡い色のニットを着たいつもの母が、枕元でベッドの私を覗き込んでいた。「お母さん…」
女性との時間は、束の間にも長い時間にも感じられた。豊かな土の香りが病室に残っている。
その他
公開:20/11/23 19:42
代理母出産
初投稿は2020/8/17。
SSGで作品を読んだり書いたり読んでもらえたりするのは幸せです。趣味はほっつき歩き&走り(ながらの妄想)。
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