最高の緑茶

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 亡くなった妻はお茶を淹れるのが下手だった。たいていは濃すぎて渋い。当の本人は「あらぁ、おかしいわねぇ」とまるで茶葉や急須に問題があるかような口ぶりだ。私も淹れてもらっている身なので「まぁ飲めるよ、大丈夫」と猫のように背中を丸めてお茶をすすっていた。
 
 妻が他界してから毎朝二人分のお茶を淹れている。その中でも、今朝のお茶は最高の出来栄えだった。色も香りも最適である。さっそく仏壇の前に淹れたてのお茶を置く。そして自分の湯飲みに視線を移した時「おや」と声が漏れた。明らかにお茶の色が濃くなっている。恐る恐る口をつけるとあまりの苦さに口をすぼめた。
 あぁ、これだ。この味だ。
 自然と背中を丸めて、ゆっくり湯飲みを傾けた。妻が生きていた頃の朝の風景が胸の中で輝いた。
「君のお茶は美味しくはないが、やっぱり最高だよ」 
 遺影の妻は朗らかに笑っていた。
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公開:20/11/24 11:48
更新:20/12/02 10:44

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