鋏の男の嘆き

1
2

 目を開けると顔の無い男がいた。夜の色をした山高帽を被り、1mはあろうかという鋏を持ってヌラリと立っている。足元を見上げれば色鮮やかな糸が絡みついている。私は逆さに宙ずりになった頭で考えた、、、ん?宙ずり?と、ここでやっと私は合点がいった。ああ、これは夢なのだと。それならば私へと足を踏み出す目の前の男も恐るるに足らぬと。そして、男が一思いに糸を断つ。そして夢の奥底へと落ちる落ちる落ちる、、、

 目を開けると鉄の天井があった。私は寝間着をクリーニングロボットに投げ、AIが算出したスーツと朝食を取り、職場へと続く全自動歩道の手すりに寄りかかって、四角い箱型の街をぼんやりと何も考えずに流されていくのだ。

 人ならざる物の世界のとある屋台で管をまく悪魔が一匹。
 「おやじぃ。どうしようかぁ。人との縁の糸をちょん切ってやってもあいつら顔色一つ変えやしねえ。あぁ、人情のあった世界が恋しいぜ、、、」
その他
公開:20/11/22 22:14
更新:20/11/22 22:17

飛田幕阿

ペンネームは「とびた ばくあ」と読みます。

好きなものは睡眠、嫌いなものは寝不足です

恐らく一生純粋な御伽話系ファンタジーは書けないんだろうなと思いながらショートショートを書いてます

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容