みすてられた世界

0
2

─誰かがぽつりと言った。

星が瞬くのを見たか? と。

その傍で誰かが呟く。

「ねえ誰か流れ星を見た?」

それは辞書や図鑑などで誰もが知るもの。だが、本物の夜空を眺め、本物の流れ星を見た者が誰か一人でも我々の中に居るだろうか?

夏祭りの夜、一等星の描く三角形を眺めながら、人々は夜空を疑い始めた。

星とは何であり、我々は何を見上げているのか?

その時、石に腰掛けた一人の老人が呟きはじめた。

“この世界を見上げて在るものは、暗幕とそこに穿たれた孔に過ぎない。それは我々が知る夜空でも星でもない。我々がいま居る場所とは……”

─耳を傾けれられる事も無く、生温い風に巻き上げられながら消えていく真実。

流れぬ星は、ただの孔。

瞬かぬ星は、ただの孔。

暗幕の向こうに誰か居るのなら、星々はその影により明滅するはずである。

我々はもう何十年も、変わらず夏の星座を見上げていた。
その他
公開:20/11/21 11:36

蛇野鮫弌( ビリヤニがたべたい )

蛇野鮫弌 (はみの こういち)

一日一作を目標に。あくまで目標……

道草食いつつ逝きましょか。

Twitter @haminokouichi

コメントはありません

コメント投稿フォーム

違反報告連絡フォーム


お名前

違反の内容