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無関心で放蕩者の弟の不在を心配してお見舞いに私を訪ねてくれた義兄に特別なお茶を振る舞う。
もう心配いらないのですよ。木枯らしの吹く旅路はさぞ体を冷やしたことでしょう。
湯気の立つ茶碗に口を付けながら首を傾げる義兄に微笑みを返す。
貴方の弟の肉と骨は人の心を殺す。それとも、とうにそんなものは失せていたのかもしれない。
特製のお茶ですから湯の底に沈むのは茶柱ではないですし、まだ秘密があるのです。その隠し味を手に入れるため、家財道具を売り払ったのは誰の知るところではありません。
義兄の頬が紅潮し、私はあとその瞳を覗くだけでいい。
ずっとこうしたかった。
貴方は酩酊して自己を失っており、高尚な観念が有耶無耶になっても責める人はいるはずもなく、今だけ人であることを忘れ恍惚に身を委ねても貴方のせいではないのです。
明日、幻は隣で冷たくなっている。
どうなろうと知らない。
羅刹は、喰らい尽くすものです。
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公開:20/11/22 17:58

晴れ時々雨

普段Twitterにて140字小説を中心に書いています。ジャンルはないです。

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