縁新聞

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 本当にこれでいいの?
 末期癌で余命僅かと宣告された夫は、彼の意思により最期の時を家族の誰とも会わずに迎えようとしていました。会うと皆に辛い思いをさせる。自分もかえって寂しくなるから1人で静かに逝くとホスピス病棟に入院したのです。
 医療スタッフとも必要な処置と、朝の新聞を差し入れてもらう時以外は極力会わない徹底ぶりでした。
 2年前に新聞記者だった息子を先に見送ってからは、心を閉ざし人との縁を避けているようでした。息子の記事を読むことが楽しみで、新聞を読む習慣だけは続いていたのです。
 その頃、彼の元に『縁新聞』なるものが届くようになりました。誰も差し入れた覚えはありません。
 それからの彼はよく笑うように。新聞には家族との沢山の思い出の記事が。息子と2人だけの秘密までも。

 彼は愛する家族に見守られながら笑顔で旅立ちました。息子とツーショットの遺影には『縁新聞』が握られていました。
ファンタジー
公開:20/11/20 23:05
更新:20/12/31 14:25
コンテスト

NORIHISA( 碧の星 )

   創作活動はこちらのショートショートガーデンが初めてです。令和元年12月31日から投稿開始しております。
 勉強になりますので、どのようなことでもお気軽にコメントいただけると嬉しいです。厳しいご意見もお待ちしております。
 どうかよろしくお願いいたします。

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