あの頃に戻りたい

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技術の進歩は人間の生活を豊かにしたか?
否、だ。

俺はつくづくそう思う。この虚空の中で。

上司とリアルタイムで動画がつながる。地上でなら、まだしもだ。ここは木星探査船である。
一昔前なら、母星との連絡手段は光なり電波を用いた通信に限られていた。それだと片道一時間近くかかるから、実際のんびりと仕事ができたものだ。まあ返事を飛ばしている最中に再送されてきたり、さっさと情報交換したいときにはもどかしいこともあったが、いまとなっては懐かしく、惜しむべき時間になった。
現在では超光速の情報伝達技術が開発されたせいで、遅滞ない会話が簡単に実現されてしまう。

お気楽なリモートワーク生活は、もう二度と戻ってこないのか。

と、また通知が届いた。おふくろからだ。
余生は火星で送ることになって、なかなか会えなくなるけど元気でな、なんて言っていたのに。
「ちゃんとご飯食べてるの?」

ああ、昔に戻りたい。
SF
公開:20/11/21 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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