輪を持って貴史となる
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祖父の部屋には保育園児だった僕の写真が飾られている。散歩から帰ったところだろう。一本の綱の両脇に取り付けられた輪を持ってみんなと歩いている写真だ。ピンぼけのそれは予防接種のために早めにお迎えに来た祖父がガラケーで撮ったものだった。可愛くて撮っちゃったとよく言っていたそうだ。
今では祖父は孫を忘れ子を忘れ妻を忘れ兄弟を忘れ自分を忘れている。
いつもぼんやりしているが、たまにどうしようもなく暴れるときがあり手を焼いていた。
ある日祖母が思いついてぶら下がり健康器に吊革をつけた。祖父にそれを握らせると、なぜか穏やかになり黙って立ったままゆらゆらと体をゆらしている。
「貴史さん毎日往復三時間持ってたもんねぇ」
祖母はそう言いながらしゃがんでスイッチを入れ電車の効果音を流す。
カタンカタン…。
立ち上がった祖母を見て、なにを思ったか祖父はその手をとると自分の吊革を握らせ背に優しく手を添えた。
今では祖父は孫を忘れ子を忘れ妻を忘れ兄弟を忘れ自分を忘れている。
いつもぼんやりしているが、たまにどうしようもなく暴れるときがあり手を焼いていた。
ある日祖母が思いついてぶら下がり健康器に吊革をつけた。祖父にそれを握らせると、なぜか穏やかになり黙って立ったままゆらゆらと体をゆらしている。
「貴史さん毎日往復三時間持ってたもんねぇ」
祖母はそう言いながらしゃがんでスイッチを入れ電車の効果音を流す。
カタンカタン…。
立ち上がった祖母を見て、なにを思ったか祖父はその手をとると自分の吊革を握らせ背に優しく手を添えた。
その他
公開:20/11/20 22:28
以和為貴
誘導リング
ボケ防止にショートショートを作ります
第二回 「尾道てのひら怪談」で大賞と佳作いただきました。嬉!驚!という感じです。
よければサイトに公開されたので読んでやってください。
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