インク馬

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 T氏は草原のど真ん中で、黒のインク瓶をひっくり返した。液体は、アメーバのように伸縮を繰り返し、やがて黒馬となった。
 馬に跨ったT氏は手綱をうならせる。インク馬は颯爽と駆け出した。
「なんて速さだ!」
 世話は簡単。時折運動させること、定期的にインクを補充すること。特に、インクは体表から常に蒸発している上、なくなると干からびてしまうため、注意が必要だ。
「次は青いインキを継ぎ足そうかな。でも、紅色も綺麗そうだしな……」
 草原を駆け回っていると、やがて辺りが暗くなってきた。雷がごろごろと鳴り響く。
「雨!? まずい!」
 T氏は馬を急かし、雨を防げる場所を探した。しかし、ここは草原のど真ん中。遮蔽物など、ない。
 雨が降り出した。馬の輪郭が歪んみ、水をかけた綿菓子のように、溶けていく。やがて、地面に吸い込まれて消えてしまった。
「やっぱりケチらず、水性じゃなくて油性の馬を買うべきだった」
SF
公開:20/11/21 21:43
更新:20/11/20 21:43

ゆぅる( 東京 )

お立ち寄りありがとうございます。ショートショート初心者です。
拙いなりに文章の面白さを追求していきたいと思って日々研究しています。
よろしくお願いします!

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