偽ラブレター

運転手さんみたいな若い人は手紙なんか書かないだろう。私が大学生くらいまではまだ葉書や手紙を書いてた。自分で言うのも変だが私は文才があると思われていてよく手紙の代筆をしてたんだ。そうだな。借金のお願いとか、逆に督促状とか。親に留年のお詫びの手紙なんてのも書いたっけな。勘当を逃れたってえらく感謝されたっけ。まぁ一番多かったのはラブレターで、いろいろ書いたよ。いい小遣い稼ぎになった。
あれはそうだな、クリスマスまであとひと月だった。先輩に破格の値段でラブレターの代筆を頼まれてね。ちょうど金が欲しかったから二つ返事で引き受けた。金額が金額だったからいつもより頑張って、本気のラブレターを書いたんだ。自分が出すつもりで。結果はもちろん大成功さ。結局結婚までいって、式にも招待されたよ。
どこが苦い話だって？先輩の相手、私の想い人だったのさ。言葉は届いたのに、気持ちは届かなかったってわけ。それだけさ。