慣れたものと慣れないもの

すっかりマスク習慣も見に付いてきた。
というより、付けていないと「あの人…」というような目で見られるため、嫌でも慣れざるを得なかったとも言う。
しかし、慣れないものもある。それは…
「あらあ、マイさんじゃない。久しぶりねえ」
振り返ると、そこには着物姿の上品な老婦人と、ご主人だろうか、これまたピシッとしたスーツに身を包んだ老紳士が居た。
マスク習慣に、未だ慣れない習慣。
『マスクをしていると、相手が誰だか分からない』だ。
例に漏れなく、親しげに話しかけてくれた老婦人が思い出せない…誰だっけ？
致し方なく、穏やか光線フルスロットルの笑顔で「お久しぶりです」と返した。
急がれていたのか、挨拶程度の会話で済んだのが救いだった。

その夜、帰宅した夫が笑いながら告げた。
「今日母さんと会ったんだって？やけに丁寧に返されたからびっくりしたって言ってたよ」
ああっ！あれ、お義母さんだったんだ‼!