人類の進化

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今日は街に出る。生身でだ。

二百年前、殺人ウイルスの蛮行によって壊滅的な打撃を受けた人類だったがなんとか生き延びた。代償に、我々は古い日常を永遠に失うことになった。

市中を跋扈しているのは人型のロボットだ。我々は自前の身体をサーバーの中に保管し、アバターを制御して人生を過ごしている。レストランにも行くが、実際の食事はチューブによる栄養補給だ。
生身で生きるにはこの世界はリスクが大きすぎる。ウイルスや病原菌、交通事故、天災、その他種々の事件に巻き込まれ、簡単に命を落とす危険がある。

それでも僕は生きてみたかったのだ。本当の生を。

だがサーバーから抜け出た僕は、途端にあらゆる感覚を失った。
二百年、生身を使わずにいた我々はあらゆる感覚器を失っていたのだ。
ケーブルを通して脳に直接与えられる電気信号以外、もう何も感じられない体。

温度も匂いも痛みもない闇の中で、僕は音のない声で叫んだ。
SF
公開:20/11/19 07:00
更新:20/11/18 07:23

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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