夕暮れ自動販売機

僕らは工場の町と呼ばれている場所に住んでいる。
連立する煙突は真っ黒い煙を吐き出し２４時間３６５日休み知らず。そのせいでこの町は青空を知らない…
今日も僕は仕事が終わると煤に塗れた顔で彼女に会いに行く。彼女もまた、煤に塗れた顔で僕を待っていてくれた。
「君に、伝えたい事があるんだ」
僕は夕暮れ自動販売機で買ったマッチ棒を今も煙を吐き出す窯の中に放り込んだ。
煙突から真っ赤な煙が立ち昇る。それは瞬く間に空を覆う黒煙へと広がり、空を燃えるような朱色に染めていく。
夕焼けのようなその光景に彼女は目を輝かせる。
そんな彼女の薬指に僕は銀細工の指輪をそっと嵌めた。
「僕と結婚してください」
頬の煤を洗い流す涙が彼女の瞳から溢れる。彼女は何度も頷いてくれた。
プロポーズが終わると、今度は窯の中に夕暮れ自動販売機で買った消火器を放り込む。
煙突から立ち昇る真っ白な煙は空を消火し、元の黒色へと戻していく。