暖かな思い出

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「懐かしい」
 ほんのり熱を帯びてきたアルバムのページをめくりながら、暗い室内で独り言ちる。アルバムが自ら発する黄金色の光のおかげで、灯りを点ける必要はない。
 家族にも友人にも先立たれ、もう長い年月が経っているはずなのに、ずっと独りだと時間が止まっているみたいだ。寂しくないように、忘れないように、年老いた脳に過去の記憶を流し込む。

 長い時間開いていたせいかアルバムは熱くなりすぎていたけれど、もっと思い出に浸っていたくて閉じられずにいた。
 もう少ししたら、眠りに就こう。そう思った頃にはアルバムはオレンジ色の炎に包まれ、見る見るうちに燃え広がり、手を、身体を飲み込んでいく。
 しかし、悶えるほどの熱さも、身体が焦げた匂いも、どこか他人事のようだ。火の壁に囲まれた地獄のような空間は、何故か暖かくも感じた。私はもうすぐこのアルバムと共に灰となるだろう。やっと、大切な人たちに、会いに行ける。
その他
公開:20/11/19 17:14
更新:20/11/19 17:16

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