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いびつな形をした黒い点が視界を飛び回っている。私は両手でぱん、と素早くそれを挟み込んだ。

「ああ、38億年の歴史が、いま幕を閉じた」

頭を抱えた教授が、さも悲しげにして言った。
「なんですか、それ」
「だってそうじゃないか。生命がこの星に誕生して約38億年。たった一つの細胞が、いま生きているすべての生物の元となったのだ。蚊の一匹と言えども、細胞単位で見れば、38億年間分裂し続けてきたものの成れの果てというわけだよ」
「教授の手の中で、たったいまいったいいくつの生命の歴史が終焉を迎えたことでしょうね」
私はいましがた消毒液を手に塗りつけたばかりの彼に言い返した。
「ただの事実さ。深く考える必要はない」
彼はそう言うと、いたずらっぽい笑みを浮かべて部屋を出ていった。

私はため息をつき、手のひらでぐしゃぐしゃになった黒い塊を見下ろす。

「永い間、お疲れさま」
なんとなくそう、呟いてみた。
その他
公開:20/11/20 07:00

レオニード貴海( 某海なし県 )

さまようアラフォー主夫

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