赤いドレス

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「戦後の闇市で屋台からはじめたんだよ」
老女が営むおでん屋のカウンターで私は眼光鋭くたまごばかりを丸飲みする銀髪の青年と隣あった。
青年は何かを懺悔するように酒を呑む。学生服でも違和感のない幼さの中にたっぷりと充ちた狂気。アルミニウムの塊を薄く削った硬質で雪のような美しい銀髪は、染めたものや老いとはちがう、何か進化の過程であるような野生を感じる。

喪服を着たあなたの涙が永久凍土を溶かしてる。あなたは太陽。いつか私と踊りませんか。赤いドレスで。

青年はポルトガルの言葉でそんな歌を口ずさんだ。
背筋に沁みる甘い声。
老女は幾つかの戦争と自分のアン生を語りはじめた。
地球に来た当時、まだ人類がいなくて出直したことや、元寇や南北朝の動乱後に闇市で開いたこの店のことなどを。
老女を見つめる青年の目に恋心が滲む。私は彼もエイリアンなのだと気がついた。そして闇市で踊るふたりを夢想しながら酒を呑んだ。
公開:20/11/19 11:39
更新:20/11/20 10:13

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